
お疲れ様です。ワキログです。
僕は普段、全国の工務店さんの経営コンサルティングをしています。
ニュースを入口にして経営学の言葉を一つずつ解説する企画、今回が第18回です。
テーマは「在留外国人428万人」のニュースです。
日本で暮らしている外国の方は、何人いると思いますか。
答えは428万人。日本の人口の約3.4%、だいたい30人に1人です。
しかもこの数字、半年ごとに「過去最多」を更新し続けています。
ここで気になるのは「何人来たか」ではなく、「来た人が、その会社に残るかどうか」です。
人を採るのが難しい時代に、効くのは採用でしょうか、定着でしょうか。いかがでしょう。
勝負は、採用より定着です。
今日は、このニュースを入口に、経営学の「人的資本経営」という言葉を解説します。
少し長くなりますが、お付き合いください。
30人に1人が外国の方、という時代になった

まずは事実から整理します。
出入国在留管理庁が2026年10月16日に発表しました。
2026年6月末の在留外国人は428万1,026人。2025年末から15万5,631人増えて、過去最多です。
10年前、2016年末は238万人でした。10年でほぼ1.8倍です。
在留資格別に見ていきます。
一番多いのが「永住者」で96万1,342人。次が「技術・人文知識・国際業務」、いわゆる技人国で51万6,184人です。
そのあとに「留学」47万9,626人、「技能実習」45万7,509人、「特定技能」44万4,256人と続きます。
技能実習は前年末比でほぼ横ばい。労働新聞は「減少に転じた」という見出しで報じています。
一方の特定技能は、半年で13.8%増。主な資格の中で一番伸びています。

ここがポイントです。特定技能の中身です。
熟練した技能を持つ「2号」が1万8,295人。2025年末の7,955人から、半年で2倍以上になりました。
1号は在留が通算5年までで、家族は基本的に呼べません。
2号は更新に上限がなく、要件を満たせば配偶者やお子さんを呼べます。
つまり「数年で帰る人」から「長く働く人」への切り替わりが、数字に出始めているのです。
国籍別では、中国、ベトナム、韓国で全体の約半数。伸び率で見ると、ミャンマーが15.9%増、インドネシアが15.6%増、ネパールも11.2%増です。
もう一つ、逆方向の数字もあります。
会社を経営する人のための在留資格「経営・管理」。この新規入国が2026年上半期で635人、前年同期から80.9%減です。
2025年10月に資本金の要件が500万円から3,000万円に上がった影響だと報じられています。
ここまでが事実です。

うちの現場でも外国の方が増えました。
でも、正直「人手が足りないから来てもらっている」という感覚なんですよね・・・。

その感覚のままだと、たぶん長く続かないですよ。
国の制度は「数年で帰る前提」から「長く働く前提」に変わっているんです。
受け入れる側の見方が「足りない人手の穴埋め」のままだと、制度の変化に置いていかれます。
「育てて長く活躍してもらう資本」として見られるか。ここが分かれ道です。
この分かれ道を説明する言葉が、経営学の「人的資本経営」です。
人的資本経営とは、人を「コスト」ではなく「資本」と見ること

経済産業省の定義はこうです。
「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」。
僕の言葉で言い直すと、人を「コスト」ではなく「投資対象」として見る経営です。
コストは削るもの。資本は育てて増やすもの。
この見方の違いが、採用も教育も評価も、全部の判断を変えます。
身近な例でいきます。
社用車を1台買うとき、「維持費がかかる」とだけ見る人はいません。
何年使って、どれだけ仕事に貢献するか、投資として見ますよね。
人も同じで、「給料がかかる」と見るか、「育てれば何年も価値を生む」と見るか。見方で判断が変わります。
①出どころは「人材版伊藤レポート」
2020年9月、経済産業省が「人材版伊藤レポート」を出しました。一橋大学の伊藤邦雄さんが座長を務めた研究会の報告書です。
ここで示されたのが「3つの視点・5つの共通要素」です。
- 人材戦略が、経営戦略とつながっているか
- 目指す姿と今の人材のギャップを、数字で把握できているか
- 企業文化として、定着しているか
中小企業向けに僕が訳すと、「誰を、何人、いつまでに育てるか。社長がそれを言えるか」です。
②測り方の世界標準「ISO 30414」
ISO 30414(国際規格の名前)は、2018年12月にISOが出した人的資本の情報開示ガイドラインです。
11の領域があって、たとえば「採用・異動・離職」「コスト」「スキルと能力」「生産性」「組織文化」。
離職率、採用にかかった費用、研修の時間。こういう数字を「経営の数字」として見なさい、という中身です。
そして2023年3月期から、上場企業は有価証券報告書に人的資本の情報を書くことが義務になりました。

上場企業の話ですよね。
うちみたいな社員15人の工務店には、関係ないんじゃ・・・。

むしろ中小企業にこそ関係がありますよ。
理由は単純で、人が足りないからです。
2025年10月末の外国人労働者は257万1,037人、1年で11.7%増。雇っている事業所は37万を超えました。
「人を資本として見る会社」と「人手として見る会社」、どちらに人が集まるか。
これはもう始まっている競争です。
③「人は資本」を数字にする

一段深くいきます。「人は資本」を数字にします。
離職1人の損失は、採用費、教育にかけた先輩の時間の人件費、そして空いた席の機会損失。この3つの足し算です。
仮の数字で置きます。採用費60万円、教育の人件費が3か月で90万円、機会損失が3か月で150万円。合わせて300万円。
数字は会社ごとに違います。
でも「1人辞めると数百万円が消える」という桁感は、たぶん多くの会社で当たっています。
辞めた瞬間に帳簿に見えるのは「採用費」だけ。残りは帳簿に出ないから、気づかないのです。
中小企業でこれが重いのには、根拠があります。
厚労省の調査で、新卒が3年以内に辞める割合は、従業員5人未満の事業所で高卒63.2%、大卒57.5%。1,000人以上だと26〜27%です。
小さい会社ほど、採った人が定着しない。だから「採用」より「定着」なのです。

ちなみに、定着には経営学の言葉で「オンボーディング」、研究の言葉で「組織社会化」という技術があります。
新人が、仕事のやり方と、人間関係と、その会社の当たり前を身につけていくプロセスのことです。
もう一つが「リアリスティック・ジョブ・プレビュー」、略してRJP。良いことも大変なことも、正直に先に見せる。
これだけで最初の期待が調整されて離職が減る、と複数の研究をまとめた分析で確認されています。
「出入り型」から「定着型」へ。新人は水合わせ

では、このレンズでニュースを読みます。
まず、特定技能2号が倍増した意味です。
技能実習は「数年で帰る」前提の制度でした。2号は長く働けて、家族も呼べる。
日本で働く外国の方の形が、「出入り型」から「定着型」に変わりつつあります。
2027年4月には技能実習が廃止されて、「育成就労」に変わります。3年働いて特定技能に移る流れが、制度の本線になります。
つまり国の制度そのものが、「人材を育てて定着させる」側に動いているのです。
建設業で見ます。
建設技能者は60歳以上が25.8%、29歳以下が11.7%。4人に1人が60歳以上です。
建設分野の特定技能は、2025年12月末で5万1,122人。2028年度末までの受け入れ見込みは7万6,000人です。
工務店にとって、外国人材の受け入れは「いつか」の話ではなく、「もう始まっている」話です。
じゃあ、定着に何が効くのか。公的な調査を見ます。
厚労省の外国人雇用実態調査では、雇う側の課題の1位は「日本語によるコミュニケーションの難しさ」で46.2%。
一方、働く側の81.2%は「今の会社の仕事を続けたい」と答えています。
JILPTが技能実習生に聞いた調査では、「給料や条件」と「会社の人が親切」の両方を挙げた人は、勤続志向が58.4%。全体の34.0%の1.7倍です。
賃金か、人間関係か、ではなくて両方。これが定着の条件です。

言葉の壁が一番の悩みなんです。
こっちは一生懸命教えているつもりなんですけど、伝わっているのか不安で・・・。

本人は「続けたい」と思っている人が8割ですよ。
辞める理由は国籍じゃなくて、受け入れ方の設計にあることが多いです。
ここから、僕の見立てです。
外国人材を「足りない人手の穴埋め」と見る時代は、数字の上で終わりつつあります。
定着型に変わった以上、日本人の新人と同じ「人的資本」として、言葉・住まい・キャリアの道筋・評価の透明性を設計した会社が残る。
僕はそう見ています。
僕は顧問先の工務店さんに「水合わせ」の話をよくします。
金魚を新しい水槽に移すとき、いきなり入れると弱ります。
袋のまま浮かべて、少しずつ水を混ぜて、慣れてから放す。
新人も同じで、初日から社会人の心得を全部押しつけると辞めます。言葉も文化も違う人なら、なおさらです。
まず環境に触れる。ルールとやり方を一つずつ足していく。慣れてから一人で任せる。
新人は水合わせ。これは国籍と関係なく、人を育てる側の技術です。
じゃあ、どうする?立場別のアクション

ここからは、立場別にいきます。
①経営者の方へ
一つ目は今日15分でできます。3つの数字を出してください。
- 離職率:1年間の離職者数÷年初の在籍者数
- 採用単価:採用にかかった総額÷採用人数
- 教育時間:新人1人が独り立ちするまでに、先輩が付いた時間
ISO 30414の「採用・異動・離職」と「コスト」の領域は、まさにこの3つです。出すだけで、自社を点検する物差しが1本できます。

二つ目は今週中に。入社90日の受け入れ計画を1枚書く。
1週目、1か月、3か月で「できるようになること」を各3つ。
外国人材を受け入れるなら、登録支援機関や監理団体に「生活支援の中身を具体的に教えてください」と聞いてください。
住まい、役所の手続き、日本語の勉強、どこまでやってくれるのか。2027年4月からは育成就労に変わるので、そこも一緒に確認です。
②会社員の方へ(現場や管理職の方)
一つ目、新人や外国人の同僚に、最初の1週間で伝えることを3つ決める。
僕のおすすめは、安全上の絶対ルール、分からない時に誰に聞くか、この仕事が誰を幸せにするか。この3つです。
二つ目、自分の「一人前の基準」を1枚に言語化する。これが書けると、評価が透明になります。
③働くすべての方へ
一つ目、自分の棚卸し。スキル、資格、経験を3列で書き出す。15分でできます。
二つ目、1年後に増やす項目を1つ決めて、それにかかる費用を「投資」として計算する。
人的資本経営を、自分に当てはめるわけです。

僕は中小企業診断士でもあるので、少しだけ試験の話をさせてください。
企業経営理論の人的資源管理では、動機づけ理論が定番です。
2022年度の第16問では期待理論、公平理論、二要因理論などが並び、正解はマクレランドの欲求理論に関する記述でした。
人的資本経営そのものも、人材版伊藤レポートや開示義務の流れから、出題が増えると僕は見ています。
せっかくなので、予想問題を1問。
人的資本経営に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア 人的資本経営とは、人件費を変動費化して固定費を抑えることで企業価値を高める手法である
- イ ISO 30414は人的資本の情報開示に関する国際的なガイドラインで、採用・離職やスキルなどの領域で指標を示している
- ウ リアリスティック・ジョブ・プレビューは、入社意欲を高めるため職務の魅力のみを強調して伝える手法である
- エ 人材版伊藤レポートは金融庁が公表し、有価証券報告書の開示項目を直接定めたものである
正解は、イです。
アは逆。人的資本経営はコスト削減ではなく、人への投資で価値を上げる考え方です。
ウも逆。RJPは良いことも大変なことも伝えるから効きます。
エは、経産省の研究会の報告書です。開示の義務化は別の流れで、レポートが開示項目を直接定めたものではありません。
試験の話はここまで。最後に、自分の会社にこの3つを聞いてみてください。
【セルフチェック】
- うちの離職率・採用単価・教育時間、今すぐ数字で言えますか?
- 日本人の新人は、今、何か月で独り立ちしていますか?
- 入社して最初の1週間で伝えることを、決めていますか?
3つとも答えられる会社は、外国人材を受け入れても同じように育てられます。
答えられないなら、受け入れの前に、育てる側の設計が先です。
国籍の問題ではなく、育てる側の設計の問題です。
まとめ:勝負は採用より定着

今日の経営学用語は「人的資本経営」でした。
- 人的資本経営とは、人をコストではなく、育てて増やす資本として見る経営
- 在留外国人は428万人、特定技能2号は半年で2倍以上。働き方は「定着型」に変わりつつある
だから勝負は、採用より定着です。
離職率・採用単価・教育時間の3つを今日出す。入社90日を設計する。新人は水合わせ。
どれも、明日から工務店の現場でできることです。

この流れに、僕は賛成です。ただ、心配もあります。
「人は資本」って、綺麗事に聞こえますよね。でも、数字で裏づけて初めて経営になります。
離職率も採用単価も出していない会社が「人を大切にしています」と言っても、社員には届かない。
心配なのは、制度は定着型に変わったのに、現場の受け入れ方が「人手」のままの会社が多いことです。
顧問先の工務店さんでも、「外国人材を受け入れたい」という相談が増えています。
僕が最初に聞くのは、「日本人の新人は、今、何か月で独り立ちしていますか」です。
それが答えられない会社は、外国人材でも同じことが起きます。
ワキログでずっと言っていますが、「働くって本当は楽しい」。でも、それを最初に伝えるのは受け入れる側の責任です。
「人は資本」を、数字と、最初の1週間の過ごし方で示す。それが人的資本経営の、中小企業版だと思います。
このシリーズでは、ニュースを入口に経営学の言葉を一つずつ解説していきます。
ワキログでした!
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