
お疲れ様です。ワキログです。
僕は普段、全国の工務店さんの経営コンサルティングをしています。
ニュースを入口にして経営学の言葉を一つずつ解説する「ニュースで学ぶ経営学」、第17回です。
今回のテーマは「住宅着工、5カ月連続増」のニュースです。
「住宅着工、5カ月連続で増加」。先月末、こんなニュースが出ました。
工務店の社長さんなら「お、戻ってきたか」と思いますよね。
でも僕は、同じ数字を見て「まだ4%足りない」と読みました。
同じ数字なのに、読み方ひとつで結論が逆になる。いかがでしょう。
「何%増」は、比べる相手しだいで決まります。
今日は、このニュースを入口に、経営学の「需要予測と統計の読み方」を解説します。
少し長くなりますが、お付き合いください。
「5カ月連続増」の中身を見ると、注文住宅はほぼ横ばい

まずは事実から整理します。
国土交通省が9月30日に発表した8月の新設住宅着工戸数は63,974戸。前年同月比で6.1%増でした。
増えるのは5カ月連続です。
内訳を見ると、貸家が28,309戸で6.5%増、分譲住宅が16,838戸で6.4%増。分譲の中身は、マンションが6,475戸で5.3%増、一戸建てが10,182戸で7.5%増です。
そして工務店に一番関係のある注文住宅。統計では「持家」と呼びますが、これが17,713戸で1.0%増。
全体が6%増えているのに、注文住宅はほぼ横ばいなんです。
地域別も見ておきます。首都圏が9.2%増、中部圏が11.0%増、近畿圏が12.3%増。
一方で、三大都市圏以外の「その他地域」は2.0%減です。
ここで一つ注意。「率」と「件数」は別物です。
首都圏は9.2%増で2万3千戸。中部圏は11.0%増でも8千戸。
率が高い方が市場が大きいわけじゃない。これ、意外と混ざって語られます。
では、なぜ増えたのか。
報道では、2025年4月に新築住宅の省エネ基準適合が義務化されて、前の年の同じ時期の着工が一時的に減っていた、その反動とみられています。
つまり「今年が強い」というより「去年が弱かった」。ここが今日のポイントです。

うちの地域は三大都市圏じゃないので、「その他地域」なんですよね。
ニュースは「5カ月連続増」なのに、うちは問い合わせが減っていて・・・。

全国の数字は「平均」ですからね。
首都圏が9%増えて、その他地域が2%減っても、合計すれば「増」になります。
全国の「増」と、自分の商圏の「減」は、同時に起きます。
ニュースの見出しだけで自社の計画を動かすと、ここでズレが生まれます。
では、「5カ月連続増」という数字そのものは、どう読めばいいのか。
ここで必要になるのが、統計の「物差し」です。
「何%増」は、比べる相手しだい

このニュースを、経営学で言うと「需要予測」と「統計の読み方」です。
需要予測は、「これから、どれだけ売れるか」を数字で見積もること。
その材料になるのが統計。でも統計は、読み方を間違えると逆の結論が出ます。
今日は「前年同月比の罠」「季節調整」「移動平均」という3つの物差しを順に見ていきます。
①前年同月比の罠(ベース効果)
前年同月比は、「去年の同じ月と比べて何%」という、一番よく使う数字です。
便利なんですが、弱点が一つ。比べる相手、つまり去年が異常だと、伸び率が歪む。
これを「ベース効果」と言います。
身近な例でいきます。
去年の夏に風邪で3キロ痩せた人が、今年「前年比で2キロ増えた」と喜ぶ。
元の体重には、まだ戻っていないんです。
今回がまさにそれで、去年の8月は60,275戸。その前の年より9.8%減っていました。
そこから6.1%増えて63,974戸。じゃあ、2年前の66,823戸と比べると?
マイナス4.3%です。
「5カ月連続増」の裏側に、「まだ2年前に戻っていない」が隠れている。
もっと言うと、今年4月から8月の伸び率は、+11.4、+33.9、+18.6、+8.2、+6.1。
去年の同じ月は、−26.6、−34.4、−15.6、−9.7、−9.8。
並べると、ほぼ鏡です。去年落ちた分だけ、今年は跳ねて見える。
だから前年比を見るときは、「去年は普通の年だったか」を必ずセットで確認します。
普通でなければ、2年前と比べる。これだけでベース効果の罠は、だいたい避けられます。
②季節性と季節調整
住宅着工は年度末の3月に多くて、1月に少ない。毎年くり返す波があります。
だから「今月は先月より減った」は、季節のせいかもしれない。
ビール屋さんが「2月は8月より売上が半分だ」と慌てないのと同じです。

そこで国交省は「季節調整値」という、季節の波を取り除いた数字も一緒に出しています。手法はX-12-ARIMA(統計モデルの名前)です。
ついでに「年率換算」。季節調整した月の数字を12倍して、「このペースが1年続いたら何戸か」に直したものです。
8月の季節調整済み年率換算値は75.3万戸。これが前月比で2.7%減。しかも2カ月連続の減少なんです。
前年比は「5カ月連続増」。季節調整値は「2カ月連続減」。同じ8月のデータです。
ここから一段深く。
統計の世界では、時系列データは4つの動きの合成だと考えます。
- 長期の方向「トレンド」
- 毎年の波「季節性」
- 数年単位の景気の波「循環」
- 一回限りのショック「不規則変動」
省エネ義務化の駆け込みと反動は、典型的な不規則変動です。
前年同月比は、この4つをごちゃ混ぜにしたまま比べている。だから歪むんですね。
③移動平均と指数平滑法
三つ目の物差し、「移動平均」です。
直近12カ月を足して12で割る。これだけで季節の波が消えて、1年分の「地力」が見えます。
実際に計算すると、2025年9月から2026年8月の合計は751,309戸。12で割って、月62,609戸。
この12カ月移動平均は、今年3月の59,264戸を底に少しずつ戻っています。でも2年前の水準には届いていない。
弱点は、動きが遅いこと。12カ月平均は変化に気づくのが半年遅れます。
だから短い3カ月移動平均も並べる。直近3カ月は65,586戸で、12カ月平均より上。
長い物差しは「地力」、短い物差しは「直近の向き」。両方並べて初めて読めます。
もう一つが「指数平滑法」。式は「次の予測=前の予測+α×(実績−前の予測)」。
新しいデータほど重く見て、古いデータの重みは指数的に小さくなる。1950年代に整理された、古典中の古典です。
αを大きくすれば直近に敏感、小さくすればどっしり。
この「どっしり具合」を自分で決めるのがポイントです。
ちなみに需要予測には、人の判断を集める「定性的手法」もあります。専門家に匿名で何度も聞いて意見を集約するデルファイ法が代表で、工務店なら営業さんの案件を積み上げる「見込み集計」もこの仲間です。

3つの物差しを一言でまとめると、こうです。
前年比は「去年と比べて」、季節調整値は「季節を抜いて」、移動平均は「1年ならして」。
どれか一つだけ見ると、簡単に逆の結論が出ます。
3つの物差しで、ニュースを読み直す

では、3つの物差しでニュースを読み直します。
事実は三つ。
- 前年比は、5カ月連続増
- 季節調整値は、2カ月連続減
- 12カ月移動平均は、底を打って、ゆるやかに回復中
僕の見立ては「反動で戻っている途中。でも、戻る先の水準そのものが下がっている」です。

根拠は長期トレンドです。
年間の着工戸数は、1973年の190.5万戸がピーク。
2024年は79.2万戸、2025年は74.1万戸で3年連続の減少。過去20年で最も少ない水準です。
年度で見ても2025年度は71.1万戸、前年度比12.9%減でした。
背景には世帯数があります。国の研究所の推計では、世帯数は2030年の5,773万世帯をピークに減っていきます。
注文住宅はもっとはっきりしていて、2025年は20.1万戸で4年連続の減少。
だから「5カ月連続増」を見て受注計画を上方修正するのは、僕は危ないと思います。
ただし、反動はしばらく続きます。
2019年の消費税増税のときも、駆け込みの反動減は数カ月続いて、ゆっくり収まりました。
今回も年内いっぱいは、前年比が高めに出やすい。来月「6カ月連続増」と出ても、驚かないでください。

じゃあ、来期の計画はどう置けばいいんでしょう。
「増えてる」とも「減ってる」とも言えて、余計に迷います・・・。

全国の数字で計画を置くから迷うんですよ。
見るべきは、自分の商圏の着工戸数と、その中での自社のシェアです。
全国が増えていても、自分の商圏が減っていれば、自社にとっての市場は縮んでいます。
逆に、全国が減っていても、自分の商圏が増えていれば、チャンスです。
これは僕の見立てなので、外れたらごめんなさい。
でも「3つの物差しで見る」という手順は、外れません。
ニュースの数字は入口。自社を点検する物差しは、自分で持つ。
じゃあ、どうする?自分の地域の「12カ月」を持つ

立場別に、今週できることを2つずつ。
①経営者の方
1つ目は今日15分でできます。国交省の「建築着工統計調査報告 時系列一覧」(Webページの名前)から、都道府県別の着工戸数のエクセルをダウンロードする。
市区町村別まで見たければ、政府統計のポータル「e-Stat」(Webサイトの名前)に住宅着工統計があります。
自分の商圏の持家着工を12カ月分足して12で割る。それを毎月更新する。これだけで、ニュースと自社のズレが見えます。
2つ目は、来期の受注予測を「問い合わせ数×転換率」で作ること。
例えば、問い合わせ100件、来場40件、プラン提案16件、契約8棟なら、契約率は8%。
契約までのリードタイムが3〜6カ月なら、今月の問い合わせ数が来春の受注を予告しています。

そして受注目標は、「商圏の着工戸数×自社シェア」で点検する。
例えば、商圏の持家着工が年400戸で、シェア5%なら20棟。着工が5%減る地域で20棟を守るなら、シェアを5.3%に上げる必要がある。
受注が減ったとき、「景気のせい」か「シェアのせい」かが、ここで分かれます。
景気のせいなら、商圏を広げるか、商品を変える。シェアのせいなら、営業と集客を立て直す。
原因が分かれば、打つ手も変わります。
②会社員の方
営業や企画で数字を報告する人向けです。
1つ目、前年比だけで報告しない。12カ月移動平均と、2年前比を1行添える。
これで「ベース効果に気づいてる人」になれます。
2つ目、自社の売上の季節指数を作る。各月の売上を年平均で割るだけ。
「3月は1.3、8月は0.8」が分かれば、会議の「今月落ちた」が減ります。
③生活者の方
家を建てる人、買う人向けです。
1つ目、「〇カ月連続増」のニュースを見たら、前年の数字をセットで見る。前年が落ちていたら、伸び率は割り引いて読む。
2つ目、検討しているエリアの着工戸数の推移を見る。着工が減っている地域は業者さんの手が空きやすく、増えている地域は職人さんや資材が混み合いやすい。これは一般的な傾向として、です。

僕は中小企業診断士でもあるので、少しだけ試験の話をさせてください。
この「需要予測」、診断士試験では「運営管理」の定番です。
令和元年の第8問では、「過去の観測値から将来の需要量を予測するために移動平均法を利用した」が正解。
令和3年の第8問では、「指数平滑法では、過去の需要量ほど重みが指数的に小さくなる」が正解でした。
今日の話と、まったく同じ構造です。せっかくなので、住宅着工版の予想問題を1問。
住宅着工戸数は前年同月比で5カ月連続の増加となった。前年の同時期は制度改正の影響で大きく落ち込んでいた。この統計の読み方・需要予測に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア 前年同月比が5カ月連続で増加していれば、需要は回復基調にあると判断できる
- イ 前年が異常に低いと前年比は高く出る。2年前比や移動平均も併せて見る
- ウ 12カ月移動平均は、直近の変化を最も敏感に映す指標である
- エ 指数平滑法では、古いデータほど大きな重みを置いて予測する
正解は、イです。ベース効果の話そのものです。
アは、前年が異常なら連続増だけでは判断できない。ウは逆で、12カ月移動平均は変化を「ならす」指標。エも逆で、指数平滑法は新しいデータほど重い。
試験に出るということは、それだけ長く使われてきた、経営の基礎になる考え方だということです。
【セルフチェック】
- 自分の商圏の着工戸数を、12カ月移動平均で見たことがありますか?
- 来期の受注目標を「問い合わせ数×転換率」や「商圏の着工戸数×自社シェア」で点検していますか?
- 「前年比〇%増」の報告に、2年前比や移動平均を添えていますか?
3つとも「いいえ」なら、まず1つ目から。今日15分で始められます。
まとめ:全国の「5カ月連続増」より、自分の地域の「12カ月」

今日の経営学用語は「需要予測と統計の読み方」でした。
- 前年同月比はベース効果で歪む。季節調整値と12カ月移動平均を並べて、はじめて本当の向きが見える
- 住宅着工は「5カ月連続増」でも、2年前比はマイナス4.3%。戻る先の水準そのものが下がっている
だからこそ、自分の地域の着工戸数×自社シェアで、自社の市場を自分で測る。
全国の数字は、あくまで平均です。
首都圏が12%増えていても、その他地域は2%減。自分の商圏と全国は、別の動きをします。

ここからは本音です。僕の立場は、賛成でも心配でもなくて「全国の数字で一喜一憂しない」派です。
顧問先の工務店さんでも、「着工が戻ってきたと聞くけど、うちは問い合わせが減っている」という相談が増えています。
そのズレは、地域の着工戸数と自社のシェアに分解すると、だいたい原因が見えます。
僕は顧問先で「工務店経営の14ヶ条」という点検表を使っていますが、大事なのは中身より、「自分の数字を自分の物差しで見る習慣」です。
ニュースの数字は入口。社長の武器になるのは、自分の地域の12カ月です。
ぜひ今日、自分の商圏の数字を一度ダウンロードしてみてください。
このシリーズでは、ニュースを入口に経営学の言葉を一つずつ解説していきます。
ワキログでした!
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