ドジャース敗退に学ぶ「成功の罠」|強いまま、なぜ負けるのか

ドジャース敗退に学ぶ「成功の罠」|ワキログ 工務店の方へ
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お疲れ様です。ワキログです。

僕は普段、全国の工務店さんの経営コンサルティングをしています。

ニュースを入口にして経営学の言葉を一つずつ解説する「ニュースで学ぶ経営学」、今回が第3回です。

テーマは「ドジャースの敗退」です。

2年連続で世界一になったチームが、今年は1勝もできずに負けました。

しかも、レギュラーシーズンは100勝です。

弱くなったわけではない。むしろ去年より多く勝っている。

なのに、負けた。いかがでしょう。

強いまま、負ける。これが「成功の罠」です。

今日は、ドジャースのニュースを入口に、経営学の「成功の罠(コンピテンシー・トラップ)」という言葉を解説します。

先に断っておくと、選手個人の責任を問う話ではありません。あくまで「組織」の話として読みます。

少し長くなりますが、お付き合いください。

100勝したチームが、0勝4敗で終わった

ドジャース直近3年の勝利数と結果|98勝→93勝→100勝、世界一→世界一→0勝4敗で敗退

まずは事実から整理します。

MLBのロサンゼルス・ドジャースは、2024年、2025年と2年連続でワールドシリーズを制しました。

2024年はヤンキースを倒して4年ぶり8度目。2025年はブルージェイズとの第7戦を延長11回の末に5対4で勝ち、球団史上初の連覇です。

そして2026年。目標はもちろん3連覇でした。

レギュラーシーズンは100勝62敗。去年より7つ多く勝って、5年連続の地区優勝です。

地区シリーズもブレーブスに勝ちました。

ところが。

10月のリーグ優勝決定シリーズで、ミルウォーキー・ブルワーズに0勝4敗。4試合すべて、リードを奪ってからの逆転負けでした。

最終戦は現地10月15日、本拠地ドジャースタジアムで4対6。

ブルワーズは1982年以来、44年ぶりのワールドシリーズ進出です。

2026年開幕時の年俸総額|メッツ3.58億ドル、ドジャース3.22億ドル、ブルワーズ1.25億ドルで差は約2.6倍

僕が注目したのは、負け方ではなく、両チームの「中身」です。

開幕時点の年俸総額は、ドジャースが約3億2200万ドルでメジャー2位。ブルワーズは約1億2500万ドルで19位です。

2.5倍以上お金をかけたチームが、1勝もできなかった。

ちなみに1位はメッツで約3億5800万ドル。ドジャースはそれに次ぐ2位です。

自信なし
自信なし

お金をかけて最高の選手を集めたのに負けるって、どういうことですか。

うちは逆で、お金がないから勝てないと思ってたんですけど・・・。

自信あり
自信あり

たぶん「お金があるかないか」じゃなくて、お金の使い方が固まっていたかどうかの話だと思いますよ。

ただし、ここは事実と解釈を分けておきます。

負けた「原因」は、一つに決められません。

短期決戦には運があります。ブルワーズは今季103勝、2年連続でメジャー最高勝率という、本当に強いチームです。

それでも「強いまま、ある日止まった」という形だけは、経営学の教科書で見たことがある形でした。

それが「成功の罠」です。

成功の罠とは、うまくいったやり方から離れられなくなること

成功の罠のループ図|うまくいく→同じやり方に集中→他のやり方を試さない→環境が変わると崩れる

英語ではコンピテンシー・トラップ。「能力の罠」とも訳されます。

一言でいうと、「うまくいったやり方に上達しすぎて、他のやり方を試せなくなること」です。

失敗して落ちるのではない。成功したから、落ちる。

ここが、この言葉のいやらしいところです。

言い出したのは、スタンフォード大学のジェームズ・マーチという組織論の大家です。

1988年、レヴィットとの共著論文「組織学習」の中で、この言葉を使いました。

定義はこうです。「劣ったやり方でも、それでうまくいってしまうと、組織はそのやり方の経験ばかり積む。結果、より良いやり方の経験が足りないままになり、そちらが報われなくなる」。

少し硬いので、身近なたとえでいきます。

ゴルフで、独学のスイングで100を切れた人を想像してください。

うまくいったから、同じスイングで練習し続ける。どんどん安定する。

コーチに「フォームを変えましょう」と言われても、変えた直後は絶対にスコアが落ちます。

だから変えない。で、90の壁をずっと越えられない。

これが罠です。「今のやり方で成功した」という事実そのものが、次の学習を止めるのです。

ポイントは、怠けているわけではないことです。

むしろ真面目に、今のやり方を磨いている。磨けば磨くほど、そこから離れられなくなる。

組織だと、これが「人」「お金」「時間」の配分に現れます。

  • 成功した事業に、優秀な人とお金が集まる
  • 新しい試みには、余った人と余ったお金しか回らない
  • 新しい試みは当然うまくいかず、「やっぱりダメだった」と本業に戻る

このループが一周するたびに、罠は深くなります。

自信なし
自信なし

紹介だけで年間20棟いけてた時期があって、広告もSNSもやってこなかったんです。

最近、紹介が減ってきてるんですけど、今さら人を割く余裕がなくて・・・。

自信あり
自信あり

紹介のほうが成約率も高いし、お金もかからない。合理的なんですよ。

でも、紹介してくれる世代が建て終わったとき、次の集客の筋肉がゼロになっている。それが罠です。

一段深くいきます。

両利きの経営の構造図|既存事業と探索事業を分け、トップの包括的ビジョンでつなぐ

同じマーチが1991年の論文で、組織の学習を2種類に分けました。

「探索(エクスプロレーション)」と「深化(エクスプロイテーション)」です。

  • 深化=今あるやり方を磨くこと。改善、効率化、品質アップ
  • 探索=まだ答えの出ていないことを試すこと。新商品、新市場、新しい売り方

マーチの指摘で一番大事なのはここです。

「組織は放っておくと、深化に偏る」。

理由は3つ。深化は成果が早く、確実で、今のお客さんに近い。探索は成果が遅く、不確実で、評価もされにくい。

だから、合理的に判断すればするほど、深化を選んでしまう。短期的には正しい。でも長期的には組織をむしばむ。

この話を経営の実務に落としたのが、オライリーとタッシュマンの「両利きの経営」です。2016年の『Lead and Disrupt』、日本では2019年に『両利きの経営』として出ました。

右手で深化、左手で探索。両方を同時にやれる組織が生き残る、という考え方です。

似た話が、クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」。1997年の本です。優良企業は顧客志向でありすぎるために、既存の技術を磨き続けて、新しい流れに乗り遅れる。彼の処方箋も「別働隊を作れ」でした。

3人の学者が、別の言葉で同じことを言っています。「うまくいっている組織ほど、変われない」。

両利きの経営の構造はシンプルです。

既存事業と探索事業は、組織を分ける。評価基準も分ける。でもトップは、両方をつなぐ大きなビジョンを掲げる。

分けるけど、バラバラにしない。これが肝です。

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よくある誤解を一つ。「探索=新規事業を立ち上げること」ではありません。

今の商品の売り方を変えてみる。今のお客さんに別の提案をしてみる。それも探索です。

大きさではなく、「答えが出ていないことを試しているか」が基準です。

ドジャースを「成功の罠」で読むと

ドジャースを成功の罠で読む流れ図(僕の見立て)|成功体験→資源配分が固まる→探索が減る→環境変化で崩れる

ここからは僕の見立てです。事実と分けて読んでください。

ドジャースは、この3年間ずっと「深化」をやり続けた組織に見えます。

MLB公式の記事によると、3年間の弱点は毎年違いました。2024年は先発の層、2025年はブルペン、2026年は勝負どころの打線。

そして毎年オフに大型補強で、その穴を埋めてきた。

今年もトレード期限にエース級の先発を獲り、オフには4年2億4000万ドルで強打者を獲っています。

「お金で最高の選手を集めて勝つ」。これは2年連続で世界一になった、間違いなく正しい勝ちパターンです。

でも、勝ちパターンは磨けば磨くほど、そこから離れられなくなる。

結果、野手の平均年齢は30.9歳で、メジャーで最も高くなりました。シーズン中は負傷者が続出しました。

MLB公式の記事も、今回の敗退を「一つの時代から次の時代への転換点」と書いています。若手の育成と世代交代が必要だと。

ブルワーズとドジャースの比較表|年俸総額・今季の勝利数・10月の結果

一方のブルワーズ。年俸総額は約1億2500万ドル。

最高年俸の選手でも2600万ドルで、ほとんどの選手が1000万ドル未満です。

その体制で103勝、球団記録。しかも2年連続でメジャー最高勝率。

高い選手を買う力がないから、育てて、見つけて、安く勝つ仕組みを探し続けるしかなかった。

皮肉ですけど、制約があったから探索が止まらなかった、とも読めます。

自信なし
自信なし

うちも「今のやり方が正しい」と思って磨いてきたんです。

それが罠だって言われると、何を信じればいいのか分からなくなります・・・。

自信あり
自信あり

磨くこと自体は正しいんですよ。問題は、磨く以外のことをゼロにしてしまうこと。

ブルワーズみたいに「探さざるを得ない」状況を、自分で作れるかどうかです。

もう一度言います。これは僕の解釈です。

短期決戦は4試合で決まります。運の要素は大きい。ドジャースの選手も監督も、全力でやった結果です。

でも「正しい勝ちパターンを、正しく磨き続けた組織が、ある日突然止まる」。

この形だけは、経営学の教科書どおりに見えました。

工務店に置き換えると、もっと身近になります。

去年と同じイベント、同じチラシ、同じ紹介ルート。それ自体は悪くありません。

ただ「なぜ今年もやるのか」を言葉にできないなら、それは勝ちパターンではなく「たまたま」です。環境が変わった瞬間に消えます。

自分の会社に当てはめる3つの問い

持ち帰りの3つの問い|なぜ効いているか説明できるか・無思考で繰り返していないか・1割を探索に使っているか

僕は中小企業診断士でもあるので、少しだけ試験の話をさせてください。

この「両利きの経営」、診断士試験の企業経営理論で実際に出ています。

令和5年度の再試験、第17問。「両利きの経営を実践するための組織に関する記述として、最も適切なものはどれか」。

正解は「構造上分離するとともに、全社的な統合を促す包括的ビジョンを掲げることが望ましい」でした。

さっきの構造図そのままです。分けるけど、バラバラにしない。

間違いの選択肢は「別会社にスピンオフしないとダメ」とか、「既存事業が探索ユニットの資源配分に介入できる仕組みを作る」とか。

どれも「分け方」か「つなぎ方」のどちらかを間違えている作りです。

せっかくなので、今日の話で予想問題を1問。

2年連続で業界首位の実績を上げたX社は、翌年も同じ商品構成と同じ販促手法に経営資源を集中させたが、市場環境の変化で業績が急落した。組織学習の観点からこの状況を説明する記述として、最も適切なものはどれか。

  • ア 探索に経営資源を偏らせ、既存能力の深化が不足した結果である
  • イ 成功体験により既存のやり方の活用が強化され、新しい選択肢を試す機会が減った「コンピテンシー・トラップ」の状態と考えられる
  • ウ 両利きの経営では収益性の高い方に資源を集中させることが望ましいため、X社の判断は理論的に適切である
  • エ 探索は短期的に確実な成果をもたらすため、組織は放っておくと探索に偏りやすい

正解は、イです。

アは逆。X社は深化に偏ったのであって、探索に偏ったわけではありません。

ウも違う。両利きの経営は「もうかる方に集中」ではなく「両方やる」です。

エも逆。短期的に確実な成果が出るのは深化。だから組織は深化に偏ります。

アとエは「探索と深化を入れ替えた」ひっかけ。試験でよく使われる作りです。

試験に出るということは、それだけ長く使われてきた、経営の基礎になる考え方だということです。

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試験の話はここまで。ここからが本題です。

工務店さん、中小企業の経営者さんに、3つの問いを持って帰ってもらいます。

【セルフチェック】

  1. 今うまくいっている集客や商品、なぜ効いているか説明できますか?
  2. 去年の成功パターンを、今年も無思考で繰り返していませんか?
  3. 来年の予算と時間の1割を、まだ答えの出ていないことに使っていますか?

一つ目。説明できないなら、それは勝ちパターンではなく「たまたま」です。

二つ目。同じことをやるのは構いません。ただ「なぜ今年もやるのか」を一回言葉にしてほしい。

三つ目。1割でいい。全部変える必要はない。でもゼロだと、罠は確実に深くなります。

この「1割」は理論上の数字ではなく、僕が実務で使っている目安です。

立場別に言うと、こうなります。

  • 経営者の方:来年の予算を組むとき、「答えの出ていないこと」の枠を先に取る。余ったら、ではなく先に
  • 会社員の方:自分の得意なやり方を、一つだけ別のやり方で試してみる。得意なほど離れにくいからです
  • 生活者の方:うまくいっている習慣ほど、「なぜ効いているか」を一度言葉にしてみる

それと、評価も分けてください。探索の1割に「今年の売上」を求めたら、誰もやりません。

「何を学んだか」で評価する。小さくていいから、本業とは別の場所でやる。

逆に「新規事業部を作ったから探索しています」も危ない。本業の評価基準でその部署を測った瞬間、探索は止まります。

強いときに、次を探す。これが一番難しくて、一番大事です。

まとめ:強いときに、次を探す

探索を止めない3つの設計|1割を探索に・評価を分ける・小さく別チームで

今日の経営学用語は「成功の罠」でした。

  1. 成功の罠とは、うまくいったやり方に上達しすぎて、他のやり方を試せなくなること
  2. 組織は放っておくと深化に偏る。だから探索は、意識して予算と時間を取る

ドジャースの敗退は、僕には「正しい勝ちパターンを磨き続けた組織の転換点」に見えました。

繰り返しますが、負けた原因を一つに決める話ではありません。相手は本当に強かった。

それでも、強いチームが強いまま止まる形は、会社でもそのまま起きます。

勝ちパターンは磨くほど離れられなくなる。だから、予算と時間の1割を「答えの出ていないこと」に使う。

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僕が顧問先の工務店さんとお話ししていると、「今のやり方でうまくいっているから、変えるのが怖い」という声をよく聞きます。

その気持ちは、よく分かります。紹介で回っている会社ほど、広告やSNSに手を出す理由が見つかりません。

でも、うまくいっているときにしか、探索にお金と時間は回せません。苦しくなってからでは、深化に戻るしかなくなるからです。

だからこそ、強いときに1割だけ、答えの出ていないことに使う。評価は「何を学んだか」で分ける。

自社を点検する物差しを一つ持っておくだけで、「たまたま」と「勝ちパターン」の区別がつくようになります。

このシリーズでは、ニュースを入口に経営学の言葉を一つずつ解説していきます。

次回も、どうぞお付き合いください。

ワキログでした!

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